「世界最先端デジタル国家創造宣言」とは

日本の「行政手続き」は、「非効率」の象徴として常に槍玉に挙げられ続けています
しかしついに政府が重い腰を上げて高らかに掲げられたのが「デジタル国家創造宣言」です。

↑このサイト、meta description要素が無いという時点で、本当に国民に浸透させる気あるのか疑わしくはありますが、それはさておき、現時点での最新状態では、令和元年6月14日閣議決定にてアップデートされています。

「デジタル手続法」で行政手続きが変わる

「デジタル国家創造宣言」で述べられたIT活用における課題や戦略の中でも、主要項目の一つとしてピックアップされたのが「行政手続き」です。
さっそく具体的な法整備として、令和元年5月31に「デジタル手続法」が公布されています。

デジタル手続法
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(↑今度のmeta descriptionはタイトルと同じ文字列でした。やる気あるのか・・・)

ここでうたわれる「デジタル化の基本原則」が下記の三つです。

  1. デジタルファースト
  2. ワンスオンリー
  3. コネクテッド・ワンストップ


これらを少し紐解いてみます。

「デジタル化の基本原則」

ワンスオンリーとは、平たく言えば「何度も同じ情報を出させない」こと。

コネクテッド・ワンストップとは、「個人情報を官民問わずバックヤードで連携する」ということだと理解しています。

この二つは、日頃の業務で役所手続きが発生する筆者にとっても、首を長くして待ち望んでいるものです。

とにかく、国と県と市の手続きでそれぞれ似たようなことをやらされるのが苦痛です。

多くの人は、市町村役場も税務署や法務局も、一括りに「役所」というイメージを持っているのではなでしょうか。
例えば納税証明書や登記簿のコピーを県に提出するなどとなると、「県が税務署や法務局に照会してくれりゃよいのに」と思うわけです。あっちこっち似たような風情の息苦しい場所に出向いて、300〜600円ほど払って文書を集めてくる作業がとにかく苦痛なのです。

そもそもそれらの機関は地理的にも近くにあることが多いです。つまりはしごで回ることが事実上通例化しているわけです。
どれだけ離れていても良いので、全部オンラインで手続きが住んで欲しいものです。

非効率という点で思うのが、マイナンバーの存在意義
個人番号を書いたすぐ下に住所や電話番号を書かせるなど「冗長じゃねぇ?」状態でした。とにかく無駄無駄無駄。ディオ・ブランドーも真っ青です。
頼むからVlookupくらいしてくださいとでも言いたくなります。

「デジタル手続法」によってこれらから解消されると思うと嬉しすぎますが、このような本来当たり前のことをこんな仰々しく宣言して法案化しないといけないこと自体がIT後進国丸出しで複雑な気分です。

 
残りのもうひとつ、「デジタルファースト」についてですが、これはなかなか大胆な宣言です。
読んで字のごとく、これまでは「デジタルでもできます」だった申請を「デジタルでするものです」に変えていくことです。

取り残される人があってはならない

「デジタル手続法」の遂行には、本文にあるとおり「情報通信技術の利用のため の能力又は知識経験が十分でない者に対する適正な配慮がされることを確保しつつ」行う必要があります。
この点について同法公布の直後となる令和元年6月14日に閣議決定された「デジタル国家創造宣言」では下記のように記載されています。

「格差が拡大することへの不安 」

(略)他方、あらゆるサービスや行政手続がネット経由となり取り残されるので はという不安を抱く利用者層は高齢者を中心に多数に上る。また、デジタル化の果実が特定の企業・ユーザーに集中し、経済的に取り残されてしまうの ではと懸念する個人が多いのも事実である。 (略)

引用元:世界最先端デジタル国家創造宣言

いかなる弱者も切り捨ててはならないという大原則がある限り、従来の手続き方法を抹消することは非常に難しいでしょう。
そうなると問題は、人材不足などを理由に従来のやり方を変えたがらない、もしくは変えたいが変えることができない中小法人が、「必ずしもやる必要はない」と考えていつまでも手をつけないことです。

それは厳しく言えば「国の方針に逆らい行政に迷惑をかけている」ことになりかねません。
たとえマイノリティであっても従来の手段が残りつづければ、結局行政の担当者は「デジタルとアナログ両方の面倒をみないといけない」状況に陥り、改革のダイナミズムが阻害されることになるからです。

いかに「デジタル手続き」を普及させるか

つまり「デジタル手続法」に沿った運用がスムーズになされるためには「そういった人たち」の尻を叩く方法についてもセットで考えなければいけません。

宣言中のデジタル弱者に生じる格差対策としては、支援員を拡充させたり、デジタルを無償で学ぶ機会を増やしたり、子供への教育を進めたりなど、一般市民の時間と人的リソースを頼りにした草の根活動が語られています。
正直、商売上お年寄りを相手にした経験もある筆者としても、地道に丁寧にサポートしていくくらいしか手段はないと思います。

 
一方、IT人材不足に苛まれる企業、特に地方の中小企業に対してはどうでしょうか。
「世界最先端デジタル国家創造宣言」では、人材育成の文脈の中で「人材の流動性」について記載していることが注目に値します。

「(4) 人材の流動性 」

(略)我が国においては、IT人材はIT企業に偏在している傾向にある。そのIT企業においても、IT人材不足が顕在化しつつあり、既にスキルを有するIT人材の活用は、 経済活性化の観点からも重要かつ喫緊の課題である。
政府としては、労働生産性向上に向けた、時間と場所を有効に活用できる柔軟 な働き方であるテレワーク等を推進し、また、フリーランスなどの雇用関係によらない働き方に関する保護等の在り方について検討を行っている。

また、フリーランスの就業形態の一つである「シェアリングエコノミー」のプラットフォームを利用して働くシェアワーカーの信用力を補完するとともに、 そのロールモデルを確立するため、一定以上のスキルを習得したシェアワーカー を認証(可視化)する仕組みの具体化を図り、来年度から実施する。

まず「人材が偏在」しているため、その利活用が十分にできてないという問題意識については、本サイトの主張における主要因の一つです。それゆえに「デジタル化の果実が特定の企業・ユーザーに集中」することになってしまいます。

政府はその解決手法として、フリーランスの活用とシェアリングエコノミーにスポットを当てているようです。

日本における旗艦的なプラットフォームとしてはランサーズやクラウドワークスがあります。

こういった場所で活躍する人たち(シェアワーカー)にいわば「政府のお墨付き」を与え、信頼性を高めて企業でも使いやすくしていく、といったところでしょうか。

「人材の流動性」はIT利活用を後押しするか

ワークシェアリングは「IT人材の流動性」?

そもそもシェアリングエコノミー活用をもって「人材の流動性」といえるのかは疑問があります

「シェアリングエコノミー」についてはこちらの書籍がわかりやすいです。

「シェアリングエコノミー」をITスキルの流動性という側面で考えた場合、これまでは物理的な距離が障壁になっていたりマッチングの機会がなく取引し得なかった人たちを含めて、スポットでIT関係の仕事を発注できるようにする、という意味ではそれは恩恵をもたらしもするでしょう。

しかし、いくらスキルは人とセットになっているからといって、それだけで「人材の流動性」というのは言い過ぎな感があります。人には組織への帰属意識もあれば、同僚との意識の共有や信頼関係の構築、道徳心といった社会性があります
つまり「スキルの所有者」から「スキル」だけを取り出しシェアできる仕組みを国がフォローするだけでは、行政手続きのデジタル化など目先の細かな目標は達成できたとしても、「デジタル国家創造」は成らないと思うのです。

「流動的に」得るスキルを「定着させる」難しさ

表現の問題は横に置いたとして、ワークシェアリングがもたらす「人材の流動性」によって、上で挙げた「従来のやり方を変えたがらない」または「変えたいが変えられない」中小法人がITを自在に活用できるようになるでしょうか

「流動性」というくらいですから、人にしろスキルにしろ時間軸で動きが発生します。
しかしスキルはもとに帰ってしまってはいけません。いったん動いた場所に留まらないといけないのです。

たとえばWEBサイト構築を外部に発注する場合、WEBで何を発信して何を得たいのかといったブランディング面を構築しないとそもそも何を作ったら良いかわからないですし、作るだけでなくどういった数値目標を立ててどう評価するのかというKPI設定、更新やアクセス解析、SEOなど「運用」といったところまで含めてきちんと報酬を払った上で社員教育してもらわないと、スキルは会社に伝播されません。

しかしビジネスが「納品物の授受」というイメージを強く持っている企業であれば、もとより社内へのスキル定着のための作業まで含めて発注をするところはほとんどいないと思います。そもそもそれを正当に考慮すれば価格はずっと上がります。
そうなると、わざわざワークシェアリングプラットフォームを使ってはじめましてな人と関わるより、結局は「近場で気軽に(無償で)相談に乗ってくれる相手」に「(多少高くても)ちょこちょこ仕事をあげる」ことで、困った時に都度便宜をはかってもらうほうが好都合でトータルでは安いということになるかもしれません。

仮にシェアワーカーに政府がお墨付きを与えて信頼性をバックアップすれば、地雷フリーランサーに当たってしまう確率は減りますが、間違いなく価格相場は上がるでしょう。

本当に必要なのは「人材そのものの移動」と「定着」

もう少しワークシェアリングを引き合いに説明すれば、ランサーズやクラウドワークスの問題点についてはいろいろなサイトで語られていますが、それらではそもそも報酬額が通常の会社どうしの取引と比べて1/10程度と言ってよいほど安いです。依頼する側は、フリーランサーの過去の実績や評価を考慮して依頼者を取捨選別できますが、依頼を受ける側にとってはかなり周到に客を選んで応札しないとかなり痛い目に合います。

シェアワーカーにとっては、「社員教育」や「保守・問い合わせ対応」などの、物品「ではなく時間とスキルを原資とするサービスに対する評価が希薄な企業の仕事を受けてしまったらたいへんなことになります。
それゆえに、依頼文書に危険因子を見つけたら間違いなく誰も仕事を受けてくれないでしょう。

つまり、ワークシェアリングでITスキルを獲得してほしいと国が思うような企業ほど、そもそも「ワークシェアリング活用のスキル」が無いため、その土俵にも乗れず、「資格」さえ有することができない状況になっているということです。

ならば「ワークシェアリングを利用する」ためにさらにコンサルタントを使うのでしょうか。それではますますコストが膨らみ本末転倒です。

必要なのは「人材の移動と定着」

IT人材採用のトレンド

話は「行政手続き」から拡大しましたが、「デジタル国家創造宣言」は「行政手続き」によるコスト削減だけがゴールではなく、その先にあるIT活用による国家の発展までふまえて実現方法を考えなければ、結局手続きが煩雑になった上で単に一部のシステム屋だけが儲かるという、これまでの政府主導の付け焼き刃的なIT化と同じ轍を踏むことが目に見えています。

当記事で記述したワークシェアリングでの例のように、スポットで外部の技術を活用できる仕組みを使うためにはなおさら、「IT知識に長けた人材を社内に保持する」ことが必要なのです。

情報処理技術者試験の運用で有名なIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が面白い資料を発表しています。

IT人材白書:IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
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ここでは、「IT企業」と、ITを利用する「ユーザー企業」それぞれに対して、IT人材に関する調査結果と考察がまとめられています。そこで次のことが明記されています。

「2018年度調査(今回の調査)と2013年度調査の比較によって、IT企業からユーザー企業への人材流動化が進んでいることが明らかになった。」

つまり、既に「転職」という形で人そのものを通じて、「ITスキルの移動と定着」がトレンドとなっているということです。
企業目線から言えば「ユーザー企業によるIT人材の囲い込み」ともいえ、実際に自動車業界やソフト業界、AI業界でIT人材が高年収で募集されるという現象として日々紙面を賑わせています。

どうせなら自由にスキルが発揮できる企業を選択せよ

IPAの資料でもう一つ重要な点は、ユーザー企業でIT人材の応募が増えている企業は次の条件を満たしている傾向があると述べた点です。

就職・転職の応募が増えたユーザー企業は、
「社内の風通しがよく、多様性を重んじ、
リスクをとってチャレンジする」

を強みや魅力としている

転職する側としては当たり前ですね。
せっかく自分の持っている強みを会社のために発揮しようと思っても、従来のやり方の踏襲しかできないのではイライラが募るばかりです。

このIPAの調査に参加しているユーザー企業967社の規模はわかりませんが、業界団体の会員企業などなので、中堅規模以上のところが多そうです。
そうなると、ある程度以上の規模・実績のある企業で、上の条件に当てはまる日本企業がいくつあるでしょうか。
あったとしても中途採用の枠は競争が熾烈な上に、入社したとしてもポッと出の中途採用社員が影響力を発揮できるようになるのにどれほどの期間が必要でしょうか

しかし中小企業であれば、経営陣やいろいろな立場の社員から短期間で信頼を得ることも困難ではなく、大きな裁量を任されチャレンジできる機会も頻繁に得ることができます

そもそも「安定した企業に入ってチャレンジしよう」というのは矛盾がありませんか
自分がやりたいことを求めて「転職」までするのであれば、それにとことんこだわりましょう。

どうやってそのような求人を探すのかにいては別のカテゴリで記述しています。

当記事のまとめ

当記事は本サイトで最も言いたかった部分ですので説明が長くなりましたが、それでも下記足りないくらいです。
とはいえ一言でまとめると下記のようになります。

「元SEの社員が」「中小企業で」そのスキルを発揮できるポストに定着すれば、国の指針であるデジタル行政を軌道に乗せることができるし、ITスキルのシェアリングエコノミーを活用して世界最先端デジタル国家創造宣言の実現主たることもできるというわけです。

Q: それでどうなる?