経理を知るとみえる、彼らの真骨頂
経理担当のイメージ
おそらくSEをやっている人からすれば、会社の経理担当というのは、
- 細かいことにうるさく融通が利かない、人間味のない連中
と映っていたかもしれません。多部未華子主演でドラマにもなった「これは経費で落ちません」という漫画の主人公がまさにそうでした。
その評価は、当人にとって決して憂えるべきものではなく、とても理にかなっているのです。
なぜ細かいか?
「経理」というのは、現金の管理は勿論のこと、日々のあらゆるお金の出入りを秩序立てて正確に「会計処理」する、つまり「企業活動を数値として体系化する」という、企業の経済活動を記録する機能を指すといえます。
さらには、キャッシュフローを把握し、運転資金を銀行から調達するなど「会社を回す」という二つの面が大きいというのが筆者の印象です。
そのためには第一に「正確性」が重視されます。
当然1円でも違っていたら数字が合わないし、顧客に支払いするにも約束から1日遅れてもいけない。
在庫数の確認だって帳簿と合わないと看過するわけにはいきません。
また、たとえば企業活動に費用がかかったとして、それがどういう目的の費用か、会食であればどういう相手とどこで何人で会合したのか。領収書をはじめとしてその客観的な証憑は取得しているか、など、とにかく細部にうるさい。
ある程度自分の裁量で行動できる営業なんかにとってみれば「こまけーこたぁどうでもいいから、大事な客に昼飯でも奢らせろ」ってなものです。
うるさい理由は明確であり、彼らがヒアリングする項目の向かう先はすべて「決算処理」と「納税処理」に向いています。
昼飯を奢ったとして、それが「交際費」になるか、「会議費」になるか。
その判断のために細かいポイントを明確に把握しておかないと、正確な申告ができないのです。
個人的には、数百円合わないとか在庫数が一つ合わないなんていう調査に1時間費やしたのでは、逆に無駄じゃないかと思うのですが、それがSEとの精神性の違いです。
なぜ融通が効かないか?
経理が相手にするのは税務署。大ボスは国税庁です。彼らには融通なんてあったものではない。
もし申告処理に誤りがあれば追徴課税が課せられるだけでなく、社会的なイメージの失墜も招きます。
お客とて人間ですから、支払いが遅れることだってあるでしょう。しかし回収期日には特に厳しい。
回収できなければ不良債権と化し会社の利益にダイレクトに影響するだけでなくキャッシュフローにも影響します。
また、不良在庫を許せば、本来在庫は会計上では資産として扱われ現金を生み出すものであるはずがそうならず、気づけば財政悪化を招き倒産の原因にさえなります。
「融通がきく」の意味をあらためて調べると、「臨機応変にその場に相応しい処置ができること」というのが本来の意味なのですが、「融通がきかない」という否定を伴った文脈では、「多少ルールから逸れてもうまく調整して後で辻褄を合わせてくれる」ことの期待が外れたときに使われる気がします。
その意味では、最終的に法律たるルールを遵守したり、会社にリスクをもたらすような芽を摘むことが職務とされるため、「融通がきかない」で当たり前です。
人間味のない連中?
とにかく「よしなに」やることで客の信頼を得たりすることもある営業とは対極となるような「人間味のない」印象は、「細かい」「融通が効かない」から生み出される以外にも原因がある気がします。
経理の仕事に集中すればするほど、通帳上で起こっている数字の増減が、営業の血のにじむ難敵との交渉の末にもたされたものなどという実感は全く湧きません。
それもそのはずで、あの営業は最近がんばっているから回収遅延は大目にみようとか、きっと売ってくれるだろうから受注前の在庫を許そう、などという私情を挟めばダブルスタンダードになり埒があきません。
つまり感情をできるだけ抑えることが着実な業務遂行の礎となるのです。
さらには、会社の数字を把握しているわけですから、会社の業績が悪い時は数字ですぐみえてくるし、誰かの営業成績が悪いこともわかる。
もっといえば給与担当であれば社員給与やボーナスの額もわかるでしょう。
あまり口外できない秘密を握っているわけだから、営業と呑んだくれた勢いでベラベラしゃべってしまうなんてもってのほかです。
付き合いが悪かったり、深い付き合いを避ける態度があっても、やむを得ない面があります。
経理は会社に潮目をつくれ
経理担当ならば、下記の当たり前の真実を一番客観的に把握できているはずです。
自分たちの給料はどこから出てくるのか。
会社にお金を運んでくるのは誰か。
いわゆるコスト部門(間接部門)がこれをきちんと理解していれば、自然と営業部門に対するリスペクトが生まれるはず。
「管理部が強い会社」なんてものは存在しないはずなのです。
しかしなぜかそうはならないのが不思議なのですが、各数字の出所に毎日触れている経理部は、一番その理解のチャンスが多いのは確かです。
つまり、営業部と軋轢が生じやすいのにも関わらず、実は一番、営業部門が本来の活動(=お金を集めてくる)をしやすいように取り計らう気持ちを持てるはずの立場が経理なのです。
それを考えたら「冷酷な経営陣と現場の熱の間(はざま)に立ち、良好な緩衝地帯を形成する」ことが経理という立場の真骨頂ではないかとすら思います。
いわば、親潮と黒潮との潮目が良好な漁場となるように、会社の潮目を作る役割です。
一方、「工数」という指標で自分の成果が厳しく管理され、それを根拠に顧客から相応の対価を得るのがSEです。お金を生み出すという点で、きっと営業側の気持ちもわかっているはず。
また、SEの経験があるのなら、顧客に提案するときに資料をでっち上げ・・・いや、「論理を構成する」ように、経営側の立場に対しうまく立ち回ることだってできるはずです。
(社長)「S君、営業部がiPadを欲しいと言っているが、本当に必要なのかね?」
(SE)「はい、我が社のBIツールはiPadの専用アプリで外出先からもセキュアに接続でき、外出先からも云々かんぬんで残業時間も削減かくかくしかじか・・・」
(社長)「・・・なるほど。(よくわからんが)残業が減って経費削減になるなら買っても良いな。」
もちろん法を逸脱したり不都合な事実を隠蔽したりは論外ですが、あくまでルールと遵守し道徳観に背かない範囲で最善の妥協点を探ったり、理論と感情の両論を駆使しながら相手を説得したりなどの活動ができるのがSE。
つまり経理と同様に、現場と経営のお互いの立場を理解することができる。
しかし、「経理と同様に」とは言ったものの、これはあくまで理想論であり、なかなか難しい。
特に「管理部門」たたき上げの経理担当ではできないことが多いです。
つまりは元SEならば、経理としても「潮目」を形成するような立ち振る舞いができる可能性が高いということです。
求められるのは「忍耐強さ」と「情報アップデート能力」
ここまでは、元SEのバランス間隔を経理としても発揮できれば会社に良い影響を与えるという趣旨の記述をしました。
なぜSEが経理になることを勧めるかというと、それが会社にとって都合が良いということだけでなく、互いの気質が通底していることを示唆するような仕事のスタイルや意識がみられるからです。
それは「忍耐強さ」と「情報アップデート能力」です。
難解文書がぼくらのバイブル
経理の仕事のバイブルは、法律です。
例を挙げれば、会社法、法人税法、証券取引法、企業会計原則など多岐に渡ります。
問題はそれらのアクセスの悪さ。
国が、これを守れと言っているわだから、当然誰でも簡単にアクセスできて検索できて見やすくて、印字できたり関連法例等との相互参照性があったりしてほしい。
そんな淡い期待はことごとく打ち砕かれます。
たとえば以下の「会社法」や「法人税法」のオンラインドキュメントを見てみてください。
そもそも大学できちんとこれら法令を学んだ専門家にとってはこんなサイト必要なのかもしれません。
そうだとしても、全てが並列的な表示で、階層性が不明確。他条文との関連性も一見わからない。
図表を用いて全体像を示すとか、他文書との関連性を示すとか、そんな気遣いもなし。
なので一般の人が上手にまとめていたりします。
こういうサイトは本当に素晴らしい。
こういった塩対応ドキュメントを見ていると、何かを思い出します。
そう、有名なISO/IEC、日本のJIS文書をはじめ、SEのバイブルといえるRFC、W3C、IEC、IEEEなどのクソドキュメントども・・いや失礼、高潔でおはします文書たちです。
ちなみにRFCでも同様にみやすくまとめられたサイトがあります。
なんて見やすいのでしょう。開発者現役のころにあってほしかった。
これらSE御用達文書と法令を比較した場合、前者の一部はあくまで業界標準であり、国の法律のように公式にばちっときめられたものではないことがあります。
ですので改廃もしょっちゅうあるし、ドラフト版を見て「コレ早く標準化されてくれー!」と祈っていたら標準化前にあっさりと廃れるものもある。
しかもほぼ100%英語。
それらに比べたら、日本語であり、かつすべて期間を定めてFIXしている国家法令文書はまだマシといえます。
しかし、ようやく見つけたgo.jpの法令ページをブックマークしても、命綱であるURLがいともたやすく変更されたりなど、「簡単にそんな変更するけど、影響わかってるの?」と首を傾げたくなる杜撰な電子情報管理です。
co.jpサイトだったのなら、URLが変わったら301でリダイレクトしておかないとSEO的に機会損失になるとか真っ先に考えるのが通例ですが、そんな慈悲深さは微塵とも見せません。
これほどデジタルデータの優位性を放棄する態度は、昔ながらに分厚く高価な六法全書を棚に飾っておけと言っているかのようです。私の会社ではすっかりブックスタンドと化してるアレです。
しかし経理の専門家は、これら難解文書をコツコツと読み解き、解釈する。
しかも曖昧ではいけない。
最終的には白黒を判定して、自分の責任のもとに、数値化したり論理化する。
そのためには勤勉であることを苦としないこと。
そして決して途中で投げ出さない「忍耐強さ」が求められること。
規範とする文書が難読である点で共通しているSEであれば、経理に転身するための前提条件となる素質を持ち合わせていると感じるのです。
そしてルールは突如変わる
毎年期間を定めてルールをFIXするとはいえ、当然ながら、法律も毎年のようにマイナーチェンジします。
しかも技術文書のような業界の進歩や洗練化に伴う改廃であるならまだしも、どちらかというとトップダウン式の、もしくは世相を反映した無理くりなルール変更も多いです。
昨今の消費税軽減税率制度のややこしさが良い「悪い例」です。
理由はどうあれシンプルになるなら良いのですが、たいていは複雑でややこしくなる方向。
例を挙げます。長い上にだいぶ端折って書いており正確ではないので、興味ある人以外は読み飛ばしてください。
毎年「損金」として計上できる(つまり税金を減らす方向の)「減価償却費」の限度額というものがある。
経理参戦間もない筆者にとっては「どうしてこうなった?」ネタとして殿堂入りさせたいくらい面倒。そもそもどれが減価償却対象となる資産なのか、という点においても、「”修繕費”ならば対象外だが、機能の維持のためではなく改良が伴う投資は修繕費に認められない」などけっこう曖昧だったりする。
ちなみに消費税軽減税率対応にかかるシステム改修費は、システム的な観点でみると「一つだったパラメータを二つにする」という明らかな「グレードアップ」だし、その仕組みを将来的に他の機能に役立てることもできそうだが、請求書やレシート等で「軽減税率」を表示するために施した改修である限りでは、「修繕費」にしてよいという政府の恩赦?が発動していたりする。。
また、減価償却対象としなければいけない資産の金額上限も、大企業と中小企業で扱いが異なる上に、期間限定の制度も存在するなど安易に判断できない。
いや、「どうしてこうなった」はここからだ。
途中で寝落ちしたければどうぞするがよい。減価償却できる金額を算定する方式には「定額法」と「定率法」がある。
前者が「購入金額を耐用年数(使えそうな期間)で割った金額を毎年損金として計上する」というわかりやすい方式であり、法人税の算定において毎年同じだけの影響を及ぼす。
一方後者は「評価額(初年度であれば、購入金額)に一定の割合(償却率という)を掛けた金額を毎年損金として(略」という方式であり、いわば買った直後ほど税金を減らせる作用が強いというわけだ。この方式のどちらを適用するのかについては、対象となる物(建物なのか車なのか機械なのかなど)によって決められていたり、企業が選択できる場合もあるが、選択可否が時々変更される上、同じ定率法であっても償却率が変わったり、わかりやすいはずの定額法であっても計算方法がマイナーチェンジして「旧定額法」と「定額法」に分裂をみせたりする。
経緯を知ってる人なら時間の文脈でおぼえられるかもしれないけども、素人にとっては阿鼻叫喚の様相を呈している。
平成に入ってからでも10年、19年、24年、28年と変更の節目があり、新しいルールで全て上書きできるならまだしも、取得時期に適用された計算方式のまま最後まで償却するルール。
つまり償却が終わるまで何種類もの計算方法が残り続け、毎年それらを意識して計算しなければいけない。プログラムに例えるならIF/Else if がミルフィーユのように多重階層化した状態。
そこに中小企業フラグがTrueだったら、掟破りのgoto文が挿入されるようなイメージ。「どうしてこうなった」
そうなった理由をみていくと、その時代その時代の景気が影響しているようで、バブル崩壊で企業に金がないときは税金が減るようにだとか、そういった考慮があったようだ。
政治家が支持層の機嫌をとるために強引なルールが施行され現場が面倒を負う、という「消費税軽減税率」の容態が昔からずっと繰り返されている。
しかし経理担当ならば、居酒屋で文句の一つを言うくらいで済ませた上で、きちんと改訂箇所を毎年チェックして知識をアップデートし、ミスなくこなさなければいけない。
しかしこういったルールの変更は、SEやプログラマーの世界でもよくあることです。
純粋に技術の進展によるシステムバージョンアップでいえば、最新の開発環境ではAPIの挙動が変わったなんてことにも遭遇します。
「使わせていただいている」意識を忘れない謙虚なプログラマーならば、そんな仕打ちにも甘んじて引き受けるでしょう(許しがたい気持ちはありますが)。
たとえそれでバグを発生させたとしても、リリースノートをきちんと確認していなかった自分が悪い。
その可能性を考えずに安易にアップデートした自分が悪いと。
また、政治的なルール変更に影響を受けるのもSEとて同じことであり、各種IT政策に追従し、ときにはシステム導入補助金制度を熟知しないと顧客提案はできません。
経理の素養ともいうべき「情報アップデート能力」は、「時代に追従する」ことが当たり前であるSEのアンテナを持ち合わせていれば、難なくクリアできるはずです。