結論を先に。
この記事で言いたいことは
「都会で5年働いたSEに対し、地方企業で3年社内SEができる権利を付与することを、国の制度として義務付けよ」
ということです。
いや、この記事というよりは、このサイト自体が最も言いたいことかもしれません。
これによって、当サイトで縷縷綿綿と書き連ねてきた日本の問題点が解決するとともに、本人としてもレベルアップが望めるのです。
名付けるなら「SE地方回遊制度」
この国家施策を「SE地方回遊制度」と名付けたいと思います。
地方へ強制移動となると、かつては「左遷」などとネガティブに言われてきました。
しかし、本制度の意義を表現するには、「回遊」という言葉がぴったりです。
回遊(回游、洄游、かいゆう)とは、海や川に生息する動物が、成長段階や環境の変化に応じて生息場所を移動する行動。
引用元:Wikipedia「回遊」
「SE地方回遊制度」の概略
- 都市圏の一部上場企業でSE職として5年勤務した者は、地方の中小企業に出向する権利を必ず得る。
- 受け入れる側の地方の中小企業(出向先)は立候補制としてDB化する。
- 出向先候補は解決したい課題を提示し、解決手法は応募者に委ねることを基本とする。
- 社内SE職以外にも、総務・経理・経営企画といった職を兼任させることができる。営業や対外SE・CEなどのプロフィットセンターは兼任させない。
- 出向期間は原則3年とする。出向先の都合で短縮された場合、その後数年募集できなくなるなどペナルティが発生する。
- 給与は出向元企業の水準とする。出向先の給与水準分の金額は出向先で負担し、残りの差分は国が負担する。
- 住居は公営住宅を優先的に確保するなど地方自治体が支援を行う。単身赴任となる場合の手当ても国が負担する。
- 福利厚生や社会保険、源泉徴収等の手続きは出向元企業で継続実施する。
- 3年経過後は元の企業に戻るが、双方合意を得れば転職・転社できる。その場合自己都合退職となるが、満額の退職金との差分は国が負担する。
- 権利を行使したことにより給与や昇進等の処遇を下げることは許されない。上げることは問題ない。
細かい突っ込みどころはあるでしょうが、骨子はこんなところでしょうか。
国家の課題を解決
国が、地方が助かる
「元SE」が地方中小企業に存在することで、その会社や国のIT化戦略上のメリットが生まれることについては、別カテゴリで詳述しました。
それ以外にも、観光産業や少子化対策の観点でも良い影響があります。
都会の人間が地方に一定期間移住すれば、周辺の観光地は一通り回るだろうし、SNSで魅力を発信する人もいるでしょう。
そこにいるうちに、と友人を招くこともあると思います。
観光産業は灯台下暗しなので、他の地域から来た人間によって観光資産が掘り起こされることが期待できます。
また、都会のシステム部門では限定されていた異性との出会いも、他の企業に行けば新たな機会を得ます。
逆に地方企業の独身社員にとっても、他の地からやってきた異業種の同世代は自分の視野を広げてくれる存在であり、魅力的に映ると思います。
交際に発展することがあるはずですし、もしその地方が気に入ってそのまま住み続けてくれるならば、この上ない地域貢献となります。
なお、当サイトでは、地方移住のパターンとして「Uターン」を主ケースと見なして記述した部分が多くあります。むしろまったく見知らぬ土地への移住はリスクが大きいとも言いました。
しかし、少なくとも3年ほどで元の場所に戻れることが約束されているならば、見知らぬ地でも飛び込んでみようという気持ちが生まれます。
それにより、生まれ故郷かどうかに縛られることもなく、もし第一希望の県は受け入れ先が一杯だったとしても、可能性を広げて選択する意欲が生まれます。
仕事面も、生きる上でも、良いことづくし
「地方中小で3年」の経験はSEレベルも向上させる
SEとして大きな企業で5年も必死に働いていれば、少なくとも業界スタンダードとなっている製品群に関して、インフラ、サーバーサイドからフロントエンド、マークアップまである程度の知識は否が応でもつくはずです。
そして徐々に、手を動かしてコーディングするだけの立場ではなく、要件定義や設計、ともすればプロジェクト管理などの上流工程に携わるケースが出てきます。
そのときに、大規模なシステムや大口の顧客だけ相手にしていては、どうしても過去の実績や安全性を第一とせざるを得ず、アイディアやチャレンジ精神、好奇心もしりつぼみになりがちです。
また、SEというのは本来、机上の理論構築や管理業務だけでは満足せず、自分自身で手を動かして実験したり新しいものを作ってみたりしたいものです。しかし、上流に関わるとそんな時間もなくなり、立場がそうさせてくれません。
それが地方の中小企業へ行けば、ほぼゼロから自分自身がすべてやらなければいけない小さな案件が山積み状態です。
それまでの専門性を活かせば、アプリが得意なら業務アプリを作ったり、インフラが得意なら各種サーバー構築など、すぐに活躍の場があります。
しかしそれだけでなく、自分の専門外についても広く浅く学べる機会が目白押しです。
小規模サーバー・クライアントの購入・設定からネットワーク構築、セキュリティ設計、運用設計、さらにWEB系コーディングから自社サイトのSEO対策、各基幹システム管理、はては光回線契約から社長のスマホ設定まで、小規模オフィスのありとあらゆるシステムに関わってきます。
たとえ結果として一つ一つは素人に毛が生えた程度の知識しか得られなくても、「一通りなんでもやってみる」というのが大事ではないでしょうか。
アプリエンジニアならばインフラの、インフラ担当ならばアプリのことを考えて設計するのは当然ですが、「システム全体の勘所を掴む」感覚というのは、経験のある範囲が広いかどうかで差が大きく生じるものです。
SEとしての「ヒューマンスキル」もアップ
メリットはSEとしての技術面に止まりません。
どうも私が見てきたSEというのは、顧客が本当に求めるものを追求するというよりは、リスクを極端に避ける、イレギュラーな仕事を嫌う、融通が効かないという面が目立ちました。
そういった物腰も理解はできるのですが、結局はシステムを使うのは人間であり、不確定性も伴うし、契約書の文言だけを規範に動いてくれるわけではありません。
システムを使う側・会社に導入する側の立場になれば、どういうSEに担当してもらいたいか、任せたいか、発注したいかが見えてくるのです。
それがわかれば、商品を説明・提案する立場になっても相手の求めるポイントが見え、顧客の信頼も得やすくなります。
守らなければいけない部分と、相手を第一に考えなければいけない部分とのバランス感覚が養われます。
人生に「動き」を与える
同じところに長く住み慣れていると、否応にも自分が見ている世界だけが基準となります。
しかしいつの世も旅が心を躍らせるように、場所を変え非日常に出会えば、それまでになかった感覚が刺激されて考えが活性化されます。
そういった感覚に憧れるのか、単に故郷に戻りたいのか、いずれにせよ、地方志向の若者が増えているというデータが出始めていることは別の記事で書きました。
しかし実際は、移住の希望はあっても叶えることができない人が多く存在します。
理由としては仕事や生活面でしょう。
歳がある程度いけば、親を介護している、住宅を買ってしまった、子供が大きくなって転校が難しい、などの人生設計的な理由が多く出現してきます。
しかし「SE地方回遊制度」行使のタイミングが「SE経験5年」であれば、転職組を除けばほとんどが20台後半です。まだまだこれらの課題は発生していない可能性が高いでしょう。
また、仮に世帯を持っていたとしても、家族も移住に前向きならば「まずはお父さんが試しに行ってみるよ」といった感覚で、単身赴任で「お試し移住」ができます。それで肌に合わなければ戻って来れば良い。
3年という期限つきなので、家族が計画的に準備を整えることもできるでしょう。
このように、地方移住のハードルを大きく下げることができ、一度しかない人生に積極的な「動き」をもたらすことができます。
漠然と、なぜか二言目には「海外で働くこと」を目標に語る若者は多いですが、国内の異郷にも目を向ける価値が、この日本という国にはまだあると思っています。